2021.05.12

【vol.2 Re:Imagine】ドラッグストアの社会インフラ化に向けて(前篇)

ゲスト:株式会社薬王堂ホールディングス 経営戦略部長 西郷孝一さま

 

連載「Re:Imagine(リ・イマジン)」では、多様な業界の識者の方々との対談を通じて、前提条件が日々変わるアフター・コロナの世界をイマジン(想像)してまいります。
今回お迎えしたのは、株式会社薬王堂ホールディングスの西郷経営戦略部長です。
コロナ禍の中で、過去最高の売上・利益を更新したにも関わらず危機感を持っているという西郷さまとこれからのドラッグストア業界について対話をいたします。

 

[語り手] 西郷孝一、 栗岡 大介(以下、西郷、栗岡)
[取材・構成・編集]栗岡
[写真] Eri Shimizu

 
 

過去最高の売上・利益でも危機感を持つ

栗岡:今回は、3つのことについて対話をしたいと考えています。まず、Withコロナ時代の薬王堂の取組について、その後Afterコロナ時代に向けてどのような活動を行っているかをお話し頂きながら、最後に対話を通じてドラッグストアの未来について議論をしたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

 

西郷:ありがとうございます。まず、最初に薬王堂ホールディングス(以下、当社)の説明をさせていただきます。当社は、東北で321店舗(2021年2月期末時点)のドラッグストアを運営、商圏人口が5~7,000名程度の人口減少が叫ばれる地域に積極的に出店するユニークな会社です。少子高齢化や買い物難民など東北地域が抱える日本の先進的な課題解決を第一優先事項に掲げ、小売業の形態をとりながら社会課題の解決を志向した経営を心掛けています。

 

今回の対話を通じて、読者の皆様とも社会課題の解決に貢献できるようなアイデア創発を行いたいと思っています。

 

栗岡:ありがとうございます。西郷さんとは日々オンラインでのやり取りはありますが、このように対面でお話をするのは久しぶりです。さて、御社の業績を拝見すると、2021年2月期は過去最高の売上・利益を更新し好調な印象を受けました。終わった期を振り返り、今皆さんが考えていることをお話しいただけますか?

 

西郷:結論から申し上げますと、業績こそ過去最高となりましたが、これからの組織の在り方に対して危機感も高まっています。本題に入る前に、コロナによって引き起こされた業界の変化について、その後当社が組織としてどのような対応をしたかについてお話しさせてください。

 

栗岡:よろしくお願いします。

 


株式会社薬王堂ホールディングス 経営戦略部長

1978年生まれ。岩手県矢巾町出身。
大学卒業後、花王で5年間勤務。その後、2012年4月に薬王堂入社し、商品部、経営企画部などを経て、現職の経営戦略本部長に就く。2018年4月に設立した薬王堂100%子会社の「Med!ca」の代表取締役に。

 
 

コスト・生鮮食品・偶然性がリアルの生きる道

西郷:コロナをキッカケとしたEC(イー・コマース:インターネット上での買い物)の台頭は不可逆的な変化です。一方で、リアルでの買い物の必然性も見直されています。具体的には、コスト、生鮮食品、偶然性の3つがポイントだと考えています。

 

当社の出店地域である田舎に住みながらオンラインで買い物をすると時間・送料という二重のコストを消費者が負担することになってしまいます。結果的に、コロナ禍で郊外店舗へ自ら自動車を運転して来店される方々が散見されました。同時に、感染リスクへの懸念からスーパーやショッピングモールなど多種多様な店舗・品揃えのある場所で買い物を完結するなど、消費者の買い回りの回数が減少しました。今回の消費行動の変化から推考すると、お客様が店舗へ来店する理由は、コストに加えて、新鮮な野菜・肉・魚を求める、商品・サービスとの偶然の出会いがあるのではないでしょうか。

 

栗岡:なるほど。消費者が求める3つのポイント、コスト、生鮮食品、偶然性というのは小売だけでなく様々な業種でも適用できる概念ですね。このような変化が起こる中で薬王堂は組織としてどのような対応をしたんでしょうか?

 
 

「課題ドリブン」を経営の中心にお客様と社会に寄り添う

 

西郷:様々な取組を実行しましたが、集約すると以下の3つだと考えています。

 

 

一つ目の取組についてですが、まず私自身コロナ禍で出張回数を大きく減らしました。コロナをキッカケにオンライン会議がニュー・ノーマルになりました。これは、見方を変えると、日本中・世界中の事業者・起業家とリアルタイムで議論が可能になることを意味します。これまでは、会議をする上で距離は課題でした。しかしこれからは距離の意味は薄れ、どのような問いやアイデアが個人や企業に寄生するかが重要になると日々の業務を通じて感じています。

 

話は少しそれますが、私は当社の強みは東北の地域性だと考えています。東北には先進的な社会課題が豊富にあります。社会課題解決の事業化を社内で「課題ドリブン」と呼んでいます。実は、世界中のスタート・アップや企業も似た考えを持っており、当社では東北にある課題解決を目的に世界中の企業と多様なコラボレーションを行っています。コロナで移動距離は短くなりました。同時に、私どものネットワークは東北地域から日本全国、そして世界へ着実な拡がりを見せています。

 

 

二つ目の取組ですが、自社(インハウス)のIT部門を強化しました。小売業は対面での商いを生業としてきたことから異業種に比べてIT化が遅れていると言われています。またIT化を進めると言っても、外部委託が多く現場のオペレーションとの連携が上手くいかないという話をよく耳にします。

 

これまで、勘・経験・度胸(頭文字をとってKKDと呼ばれる)で行ってきたことを出来るだけIT化することでよりお客様に喜ばれる店づくりをしながら、従業員の業務負担の軽減を行っています。お客様だけでなく、従業員も喜ぶ店づくりは、当社の永遠のテーマです。

 

栗岡:KKDとは凄い言い回しですね。最近、コロナをキッカケに転職や離職が進んでいると聞きます。転職・離職者の理由に一貫するのは企業サイドが環境の変化に対応できずに、従業員の方々の精神的・肉体的ストレスが増加したからというものでした。

 

西郷:そうなんです。お客様と対面で接する機会が多い小売業は人財が全てです。だからこそ、いかに従業員の負担を減らしながら、やりがいを持って働いて貰えるかを考えて、3つ目の取組を行いました。当社では、はたLuckに加えて様々なテクノロジーも導入することで、課題や成功事例を言語・画像で共有し、社内外のネットワークをより強固なものにしてきました。AIと同様に、人間が働くにも情報の質・量が必要です。社内でも店舗でも、テクノロジーと人間が補完関係を築くことが企業経営、お客様・従業員満足度、ひいては社会課題の解決に必要不可欠だとコロナ禍で改めて認識いたしました。

 

(前篇終わり)