2021.05.14

【vol.2 Re:Imagine】ドラッグストアの社会インフラ化に向けて(後篇)

ゲスト:株式会社薬王堂ホールディングス 経営戦略部長 西郷孝一さま

 

連載「Re:Imagine(リ・イマジン)」では、多様な業界の識者の方々との対談を通じて、アフター・コロナの世界をイマジン(想像)してまいります。

今回お迎えしたのは、株式会社薬王堂ホールディングスの西郷経営戦略部長です。前篇では、コロナ禍で顕在化したリアル店舗の強み、薬王堂ホールディングスの取組についてお話しいただきました。後篇は、同社がアフター・コロナを見据えてどのような取り組みを行っているのか、ドラッグストアの将来像も含めて議論いたします。

 

[語り手] 西郷孝一、 栗岡 大介(以下、西郷、栗岡)
[取材・構成・編集]栗岡
[写真] Eri Shimizu

 
 

ドラッグストア業界の成長カタリスト

西郷:まず、お伝えしたいことは、私はドラッグストア業界に対して非常に明るい未来像を描いているということです。理由は3つあります。1つはIT化により業務効率の改善が見込めること。2つ目は業界の世代交代が進みつつあること。そして最後は、IoT社会の中で異業種人材との交流が活発化していることが挙げられます。

 

栗岡:IT化は前篇でもお話を伺いました。2つ目の世代交代について補足いただけますか?

 

西郷:はい、小売業界は人口増・出店増で生まれた成功体験が変化の足かせになっているように感じています。日本の人口が増える時代では、創業者のKKD(勘・経験・度胸の頭文字をとった造語)が最大の武器になりました。結果、早期に大きなリスクを取り、多店舗出店・ドミナント化に成功した企業が成長しました。これは小売業だけでなく、商品を供給するメーカーにも同じことが言えるかもしれません。私自身、メーカーで働いていたこともあり、これまで業界に変化を起こすのは難しいと思っていました。

 

 

ただ、最近その考えを改めました。社内コミュニケーションのIT化を進め社員との対話を重ねていると、人口が減少しても成長するための戦略が20~30代の若手から次々と出てきます。また、メーカーの若手担当者と商談をしていても同様のアイデアが出てくるんです。少子高齢化でも成長するためのストーリーが日本各地で生まれ始めています。

 

栗岡:なるほど、足元では既に変化が日々起こっているんですね。

 

西郷:はい、小売業というのはやはり陣取合戦なんです。良い立地を押さえたら、次は良いアイデア、サービス、商品を自社で囲い込む。しかし、今はリアルだけでなくデジタルという空中戦もあります。加えて、売上を上げることが、地域貢献や社会課題の解決に繋がっていないといけません。これを制約か事業機会と捉えるかで企業経営の舵取りは大きく変わってきます。時代は大きく変わりました。当社では、全てが事業機会であると捉え、業種の垣根を越えたパートナーと共に時代にあった事業を模索しています。

 

株式会社薬王堂ホールディングス 経営戦略部長

1978年生まれ。岩手県矢巾町出身。
大学卒業後、花王で5年間勤務。その後、2012年4月に薬王堂入社し、商品部、経営企画部などを経て、現職の経営戦略本部長に就く。2018年4月に設立した薬王堂100%子会社の「Med!ca」の代表取締役に。

 

栗岡:なるほど。セールス・フォース社の創業者のマーク・ベニオフ氏は、著書の中で「Doing well is doing good.(企業業績が上がることは社会にとっていいことをしていないといけない。)」と述べています。薬王堂はドラッグストアを生業としていますが、地域の社会インフラとして様々な課題を解決するサービスを提供することが求められますね。

 
 

フィジタル社会に必要な小売業を極める

西郷:はい、その為にも徹底して小売業を極めます。大きなテーマとしてフィジタル(フィジカルとデジタルの融合)があります。デジタル化が進んでいるにも関わらず、この言葉の頭にはフィジカルがあります。やはり人間が実在し、リアルなものである以上、フィジカル(身体)というデータの元になるものをデジタル(見える)化し、多様なデータと結びつけてこそ有効性が生まれることを示唆しています。

前置きが長くなりました。当社では、多様なフィジカル・データの集積所である小売業・店舗運営を極めます。これは、原点回帰とも言えます。短時間の買い物に対応した見やすく買いやすいお店づくりを徹底します。加えて、新たな取り組みとして、お客様の満足度最大化を目指し、多様な業界との連携を進めいます。

 

 

栗岡:なるほど。これまでの構図はリアル vs デジタルでした。薬王堂はリアル with デジタルで協業を通じて、お客様の満足度を高めるというものですね。

 

西郷:その通りです。店舗を持っているということは、お客様が抱えている課題抽出から課題構成要素のモジュール化がワンストップで可能となります。さらに各要素に対して、コラボレーションを通じたプロトタイプ及びイタレーションが可能になればお客様の満足度の最大化を最短時間で達成出来るのではないかという仮説を持っています。

 

考えてみてください、既にお客様はユーチューバーが勧める商品を店舗で購入し、スマホで決済をしています。フィジカルとデジタルが融合したフィジタル社会は既に実現しています。不可逆な変化は既に起こっており、小売業界へ賽(サイ)は投げられているんです。

 
 

店舗はメディアになる

西郷:実は当社の傘下にMed!ca(メディカ)株式会社という私が代表を務める会社があります。この会社では、未来のお客様のニーズをベースに店舗の在り方を模索しています。

 

社名のメディカには、店舗はこれからメディア化していくという想いを込めています。例えば、アップルストアは同社製品の販売拠点ではなく、お客様がブランドや製品を認知、体験する場となっています。五感をフル活用し製品・サービスを体験できるのは店舗以外にないんです。店舗とは単にモノを販売するだけでなく、体験を通じて製品・サービスやブランド価値を伝え、お客さまに認知いただく媒体(メディア)の役割を既に求められています。

 

栗岡:なるほど、EC化率が高まるほど店舗での体験価値は上がるはずです。理由はいくつかありますがアマゾンも実店舗を持っています。また、オンライン・マーケティングで成長するD2C企業も実店舗開発に注力していることとも符合します。

 
 

東北のインフラ企業を目指して

西郷:店舗はメディア化するという仮説を立てた時から一気にドラッグストア(当社)の未来に対する解像度が高まりました。詳細はまだお伝えできませんが、カメラ、センサー、物流、ヘルスケア、データマイニングなどなど店舗のメディア化に必要な企業・人と日々議論を重ねています。

 

 

栗岡:ドラッグストアがメディア化する。中々、想像するのが難しいですが、これまでのモノを買う場所から、オンラインと店舗の強みを活かして生活に必要なサポートを一気通貫で行うプラットフォームのような場になる。そのような理解でいいのでしょうか?

 

西郷:そうですね、それが理想です。しかし、我々はもっと土着的な想いを持って、日々店舗運営に携わっています。私自身、東北という課題先進地域の一(いち)市民として、店舗を運営する事業者として、家族・お客様が今後直面する課題を解決したいという強い想いを持っています。今後、加速度的に少子高齢化、買い物難民、地域包括ケアに対する課題は増えるばかりです。しかし、その課題を解決することが、地元東北を通じて日本や世界の地域課題の解決に少しでもお役立ちできるかもしれません。

 

個人としても、企業としても、これ以上のやりがいを見つけることは難しいのではないでしょうか。

 

栗岡:きっと、御社には西郷さんのように地域課題を自分事化する方々が沢山いらっしゃるんでしょうね。最後に、補足があればお願いします。

 

西郷:私たちは、日本の、いや世界の課題先進地域・東北において、お客様の今と未来を健康で繋げるお手伝いをさせていただくことを目指しています。国内外の企業、自治体の皆様と協力し、薬王堂でプロトタイプしたテクノロジーやデータを世界にシェアさせていただければ幸いです。

当社が東北地域の社会インフラになるためには、より多くの方々とのコラボレーションが鍵を握ります。読者の皆様もぜひ、忌憚ないご意見をいただければ幸いです。

 

(終わり)